効果的なマスクや間仕切りの使い方や換気の仕方など

理化学研究所や神戸大学などは、スーパーコンピューター「富岳」を使い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への効果的な施策を探る研究を実施している。
このほど、マスクやフェースシールドの効果的な使い方や、オフィスなどの間仕切り、医療機関や多目的ホールでの効果的な換気の方法などについて明らかになった。

スパコン「富岳」でCOVID-19対策

理化学研究所や神戸大学などの研究チームは、世界最高の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳」を使い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への効果的な施策を探る研究を実施している。

理研計算科学研究センターで8月24日に、記者向け説明会をオンラインで開催。理化学研究所チームリーダーで神戸大学大学院システム情報学研究科教授の坪倉誠氏が、マスクによる飛沫の拡散防止の効果や、オフィスや病室、教室などの窓開け換気の効果などを計算した結果を公表した。

COVID-19対策ではかねてより、せきやくしゃみ、発声などで発生する飛沫と、これらの飛沫のうち小さいものであるエアロゾルによって、感染が広がる可能性が指摘されている。

「富岳」によるシミュレーションにより、マスクやフェースシールドをどう使えば効果的かや、オフィスなどの間仕切り、医療機関や多目的ホールでの効果的な換気の方法などについて明らかになった。

世界一のスーパーコンピュータ「富岳」

出典:理化学研究所、2020年

マスクを付ければ飛沫の8割を抑えられる

それによると、素材の異なるマスクの性能を比較した結果、不織布マスクも布マスクも、感染のリスク低減の効果を期待できることが分かった。

どちらのマスクも、排出ウイルスの8割程度を抑え込む飛沫の拡散防止の効果があり、新型コロナウイルスの対策には有効だという。布マスクは不織布マスクより空気抵抗が少なく、マスクのフィルタ部分に入る粒子は多い。

不織布マスクは飛沫の拡散防止効果はもっとも高いが、直径20マイクロのエアロゾルについては、マスクと顔の隙間からの漏れが少なくないことが明らかになった。

マスクを付けていれば飛沫の8割を抑えられる

出典:理化学研究所、2020年

研究チームは、フェースシールドの効果についてもシミュレーションを行った。直径50マイクロメートル以上の大きな飛沫は、フェースシールドに付着して拡散を防ぐ効果を見込めるが、直径20マイクロ以下のエアロゾルは、横から漏れることがあるという。

「マスクを付ければ飛沫の7~8割は抑えられる。呼吸しやすいマスクはフィルターの性能が悪くなる点があるが、高温多湿の夏には多少の性能を犠牲にしてでも、息のしやすいマスクを付けて工夫して欲しい」と、坪倉誠氏は言う。

「フェイスシールドで飛沫飛散を防ごうという場合には、小さな飛沫に対しては、換気を併用する必要がある」としている。

マスクやフェイスシールドだけでなく換気も必要

出典:理化学研究所、2020年

病室では外気を取り入れ、エアコンや扇風機で空気を循環

オフィスなどの間仕切りは、床から高さ1.4メートル程度が適当で、高さ1.2メートルでは飛沫が向かい側の席まで広がってしまう。逆に高過ぎても局所的に換気の悪い場所ができ、逆効果になる可能性がある。

医療機関の病室での、エアロゾルによる感染リスクもシミュレートした。

82.5立方メートルの4つのベッドが配置された病室で、換気能力をもたないエアコンが設置され、外気が入る窓と、それが抜けるドアがある場合を想定。

エアロゾルが充満した状態から外気を取り入れると、エアコンを停止した状態では500秒後には外気が入る場所では清浄化されるが、カーテンなどで区切られた場所の換気は十分ではないという。

しかし、エアコンを稼働させると、換気機能がなくとも空気は部屋全体を循環し、室内の換気が進み、空気が清浄化されるという。

「病室では、仕切りカーテンの影響で換気ムラができる。そうした場所では、外気を取り入れるだけでなく、エアコンや扇風機などで空気を循環させるのが勧められる」としている。

オフィスなどの間仕切りは1.4メートル程度の高さは必要

出典:理化学研究所、2020年

教室では対角の窓を少し開ければ換気ができる

研究チームは、教室などの窓開け換気効果についても、ウイルス飛沫とエアロゾル感染の予測を行った。

生徒40人の公立学校モデルを対象にリスク評価を行ったところ、エアコンを稼働した状態で、すべての窓を左右20cm開け、廊下側の扉も開ければ、100秒程度で効率的に換気ができることが分かった。

「エアコンを稼働させなければならない夏場や冬場は、窓を対角に少し開ければ十分な換気ができる。さらに感染リスクを下げるためには、休憩時間に窓を全開にするという手段もある」としている。

多目的ホールでは観客がマスクを付け間を空けて座ることが必須

新型コロナでイベント開催の自粛を求められている多目的ホールでの飛沫拡散のシミュレーションも実施した。川崎市にある1万4,000平方メートルの多目的ホールで2,000人が着席した状態を想定した。

多目的ホールは換気を考え、客席の下部にエアコンが取り付けられた設計になっており、仮に汚れた空気であっても、客席では数分、全体では10分で空気が入れ替わった。観客がマスクを付けてて間を空けて座れば、エアロゾルによる感染リスクは、ほぼ問題ないレベルだという。

客席で連続して強い咳をした場合のシミュレーションも実施した。マスクをしないでいると、飛沫は前列の人たちまでが広がるが、マスクをした場合は、小さな飛沫はまわりに漂うものの拡散は抑えられることが分かった。

舞台上の演者がせきをした場合は、小さな飛沫が2~3メートル飛散し、エアコンの風で拡散する。そのため、観客は舞台から一定の距離を取って座ることが望ましいという。

観客がマスクを付けてて間を空けて座れば感染リスクは抑えられる

出典:理化学研究所、2020年

「エアコンの併用や窓開けなどによる換気を徹底した上で、観客を半分程度にして、全員にマスク着用を求めることが大切。今後の制限については、地域でクラスターが発生していないかを見極めながら、徐々に緩めていくことになるだろう」と、坪倉氏は指摘している。

研究グループは今後は、公共交通機関での評価にも取り組む予定だ。すでに通勤列車での検討は発表しているが、タクシー、バス、飛行機などでもシミュレーションを実施するという。

スーパーコンピュータ「富岳」記者勉強会
室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策

理化学研究所