「低炭水化物ダイエット」が、体重減少や糖代謝の改善の効果があるという研究が報告されている。
効果があるという研究が、海外で報告されて以来、糖尿病の食事療法でも注目されてきた。
しかし、日本人を対象に「低炭水化物ダイエット」の効果を調べた研究は少なかった。
このほど、日本人9万人超を17年間追跡した大規模調査で、「炭水化物は少な過ぎても、多過ぎても、死亡リスクは上昇する」という意外な結果が示された。
ただし、「植物性食品にもとづく低炭水化物ダイエット」であると、健康への好ましい影響があらわれることも示された。
「低炭水化物ダイエット」は日本人に効果があるのか?
「低炭水化物ダイエット」は近年、体重減少や糖代謝の改善などがあるとして、その健康効果が注目されている。
血糖値を上げやすいのは、すぐエネルギーになりやすいごはんやパン、砂糖などの、炭水化物の多い食物とされている。「低炭水化物ダイエット」は、その炭水化物を制限する食事スタイルで、炭水化物の摂取比率や摂取量を低く抑えるのが特徴となる。
炭水化物の制限が、肥満の改善の効果があるという研究が報告されて以来、糖尿病の食事療法でも、炭水化物制限の効果は注目されてきた。
「低炭水化物ダイエット」について、これまで米国では多く研究が行われているが、日本からの報告は少なく、脂質やタンパク質の摂取源について検討した研究はなかった。
そこで研究グループは、今回の研究で、「低炭水化物ダイエットスコア」を作成し、その後の死亡と死因別について検討した。さらに、脂質とタンパク質の摂取源が、動物性または植物性であるかによって、どのような影響があるかを検討した。
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
研究はJPHC研究の一環として行われたもので、国立国際医療研究センターや国立がん研究センターなどの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Clinical Nutrition」に掲載された。
「低炭水化物ダイエットスコア」を作成
調査は、1995年と1998年に、岩手、秋田、長野、沖縄、東京、茨城、新潟、高知、長崎、大阪の11保健所管内に在住し、食事アンケートに回答した45~74歳の男女9万3,654人を対象に行われた。
研究グループは、食事調査アンケートの結果を用いて、1日のエネルギー摂取量を推定し、炭水化物、脂質、タンパク質からのエネルギー摂取の割合をそれぞれ計算した。
次に、炭水化物からのエネルギー摂取の割合が高いほど小さな得点を与え(10~0点)、脂質とタンパク質は多いほど高い得点を与え(0~10点)、それらを合計して「低炭水化物ダイエットスコア」とした。このスコアが高いほど、炭水化物の摂取量が比較的少なく、脂質やタンパク質の摂取量が多いことを意味する。
「低炭水化物ダイエットスコア」が低い順に並べて、人数が均等となるよう5グループに分け、スコアがもっとも低いグループを基準として、その他のグループのその後の全死亡、循環器疾患やがんによる死亡リスクを調べた。
その際、年齢、性別、地域、体格、喫煙・飲酒習慣、余暇の身体活動、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の既往、職業、エネルギー、コーヒーや緑茶の摂取量については、その影響を取り除いた。
関連情報
炭水化物は少な過ぎても、多過ぎても、死亡リスクは上昇
16.9年間(中央値)の追跡期間中に、1万3,179人が死亡した。死亡の原因別では、がんが5,246人、循環器疾患が3,450人、心疾患が1,811人、脳卒中が1,358人だった。
「低炭水化物ダイエットスコア」の各グループの、炭水化物からのエネルギー摂取の割合の平均値は、スコアがもっとも低いグループで65%、もっとも高いグループで43%だった。
解析した結果、「低炭水化物ダイエットスコア」は、低くても高くても死亡のリスクが高いというU字型の関連がみられた。死亡の原因別にみたところ、循環器疾患と心疾患で、同様のU字型の関連がみられた。
次に、脂質とタンパク質の摂取源を、動物性食品と植物性食品に分けて検討した結果、動物性食品にもとづく「低炭水化物ダイエットスコア」と死亡リスクとの関連はU字型であるのに対し、植物性食品にもとづく「低炭水化物ダイエットスコア」は値が高いほど死亡リスクが減少するという関連があることが分かった。
植物性食品にもとづく低炭水化物ダイエットスコアと死因別リスク
炭水化物を減らすときは、脂質・タンパク質は植物性を摂ると好ましい影響が
今回の研究では、日本人では、炭水化物の摂取量に対する脂質やタンパク質の摂取量が少ない場合と多い場合のいずれも、死亡リスクが高まることが明らかになった。
また、脂質やタンパク質の摂取源が、動物性食品か、植物性食品かによって、死亡リスクとの関連が異なることが分かった。
研究結果から、炭水化物の摂取量を減らして、脂質やタンパク質の摂取量を増やす場合には、死亡(とくに循環器疾患死亡)のリスクを低減する観点からは、脂質・タンパク質は主に植物性食品から摂取するのが望ましいことが示唆された。
「炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素は、たとえば、炭水化物の摂取が少なければ、タンパク質や脂質の摂取が多くなるため、全体のバランスとして考える必要がありますと、研究グループは述べている。
「低炭水化物ダイエットでは、とくに動物性食品から脂質やタンパク質を多く摂取した場合、健康への好ましくない影響も報告されています」。
日本人は主に米から炭水化物を摂り、魚もよく食べる
このように、米国の研究では、「低炭水化物ダイエットスコア」が高いほど死亡リスクが高いという結果も報告されているが、今回の日本人を対象とした調査は、U字型の関連が示されるという結果になった。
研究グループはこの理由として、「米国と日本では、炭水化物や脂質、タンパク質の摂取源が異なることが考えられます。米国では、炭水化物の摂取源が炭酸飲料やソーダ、ケーキなどですが、日本では主に米からです」と述べている。
「脂質やタンパク質の摂取源となる動物性食品では、米国が主に肉類であるのに対し、日本では、魚介類の摂取量が多いことも考えられます。また、炭水化物の摂取量を極端に減らすと、その主な摂取源である穀類に含まれる食物繊維など、生活習慣病の予防に寄与する有益な栄養素の摂取が減り、病気のリスクが高まるかもしれません」している。
炭水化物の摂取量と糖尿病リスクの関係はまだ分かっていない
「低炭水化物ダイエット」の効果や安全性については、世界中で相反する結果が報告されている。「低炭水化物ダイエットは効果がある」とした研究も多いが、「安易に行うのは勧められない」とした研究もある。
「低炭水化物ダイエット」は、脂肪を抑えて摂取カロリーをコントロールする「低脂肪ダイエット」に比べ、決して有利ではないという研究も発表されている。
日本糖尿病学会は、「炭水化物の摂取量と糖尿病の発症率との関係については、一定の見解が得られていません」として、「食事療法の効果は、さまざまな栄養素の相互の関係において評価すべきものであって、特定の栄養素の効果のみを抽出するのは困難です」という見解を示している。
また同学会は、「食物繊維は糖尿病の状態を改善するのに有効です」として、「炭水化物の摂取量にかかわらず、食物繊維を1日に20g以上摂ること」を推奨している。
なお、研究グループは今回の研究について、炭水化物について、食物繊維やビタミンなどを多く含む玄米や全粒粉については検討していないことを限界点としてあげている。
また、エネルギーに対する炭水化物からのエネルギー摂取の割合の平均値は、スコアがもっとも低いグループで65%、スコアがもっとも高いグループで43%だったが、この範囲を超えた場合(たとえば、炭水化物の摂取がかなり少ない食事)の健康影響については、さらなる研究が必要としている。
多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Low carbohydrate diet and all cause and cause-specific mortality(Clinical Nutrition 2020年9月23日)
日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言~糖尿病における食事療法の現状と課題~(日本糖尿病学会 2013年3月18日)