自覚症状なく進んでいく目の病気 糖尿病網膜症

糖尿病は、高血糖状態が長く続いた状態のことで、それ自体はそれほど怖い病気ではありません。糖尿病の本当の恐ろしさは、様々な合併症を引き起こすところにあります。
自覚症状のほとんどない糖尿病は、知らないうちに進行がすすみ、合併症の症状によって初めて糖尿病だと気付くケースも少なくありません。

糖尿病の合併症で、目に現れる代表的な病気が糖尿病3大合併症のひとつ『糖尿病性網膜症』です。糖尿病患者が年々増えるに従い、この糖尿病性網膜症による失明人数も増加傾向にあります。

失明を未然に防ぐため、糖尿病網膜症の発症原因や予防方法、そして発症してからの治療法などを知ることで、早期発見・進行防止にお役立てください。

目と糖尿病の関係

血糖値が高い状態が続く糖尿病は、血液の流れが悪くなることで身体のいたるところに支障をきたします。細くてもろい毛細血管に影響が出やすく、毛細血管が集まっている目は特に障害を受けやすい部分です。

目のかすみ、視力低下などは糖尿病初期に現れやすい症状ですが、痛みや外的変化を伴わないため、見過ごされがちです。
視覚に異常が認められるようになると、残念ながら糖尿病が進行しており、合併症を引き起こしている可能性が高くなります。

糖尿病早期発見のためには、目の異常を自覚することに頼らず、定期的な尿糖検査や全体的な身体の状態をチェックすることが有効です。
また、糖尿病を発症してしまうと、大抵の場合は目に影響が出てきますので、合併症の早期発見のため、眼底検査などを欠かさないようにしましょう。

糖尿病網膜症の発症・進行

糖尿病網膜症は時間をかけて進行し、最終的には失明に至る重篤な病気です。
しかし、初期段階で適切な治療を行えば、進行の速度を遅らせたり、病状を安定させる
ことができます。

糖尿病網膜症の進行過程は、『単純網膜症』『増殖前網膜症』『増殖網膜症』の3段階に分けられます。

単純網膜症

糖尿病網膜症の初期段階で、糖尿病発症から5~10年で発症するといわれています。高血糖により脆くなった血管から血液が染み出したり、毛細血管瘤ができますが、自覚症状はほとんどありません。

この段階で血糖コントロールに成功し、正常な血糖値を保つことが出来れば、多くの場合これ以上の進行を食い止められることができます。

増殖前網膜症

さらに進行すると、血栓により血管が詰まり、血液が行き届かなくなります。酸欠状態が続くと、何とか酸素や栄養を取り込もうと、かわりに新しい血管がつくられます。

これを新生血管といい、非常にもろい血管です。この新生血管は、様々な症状を起こす要因となりますので、新生血管がつくられる前に虚血網膜をレーザーで光凝固することで進行を阻止する手段が用いられます。

この状態でも自覚症状はほとんどないことが多いのですが、眼底写真ではハッキリと異常が見られます。

増殖網膜症

新生血管がつくられていきます。
死んだ血管のかわりに新しい血管がつくられる、と聞くと、何となく悪いことではない気がしますが、この血管は非常にもろいため破れやすく、網膜や硝子体に出血すると著しい視力低下がみられます。
また、新生血管から漏れ出した血液成分が増殖膜をつくり、この増殖膜が収縮することで、網膜剥離を引き起こすのです。
糖尿病網膜症はこの段階まで進んでも自覚症状がない場合も多く、網膜剥離や網膜出血を起こして初めて発症に気づくこともあります。

治療法としては、状態が安定するまで網膜全体にレーザー光凝固を行いながら、新生血管が増えるのを抑え続けます。

治療の効果があらわれ、症状が鎮静化してくると『増殖停止網膜症』となりますが、それまでは視覚障害、失明の危険が伴います。

また、増殖停止網膜症となった場合でも、症状が悪化することもありますので、必ず定期的な健診を行う必要があります。

糖尿病網膜症の予防・進行防止

糖尿病網膜症発症だけを予防するための効果的な方法はありません。
糖尿病網膜症の最大の予防手段は、糖尿病にならないこと。また、糖尿病を発症した場合は早い段階でしっかりと血糖コントロールを行い、合併症を起こさないようにすることが大切です。

また、定期的な眼底検査などを行い、自覚できない身体の異常をいちはやく発見することで、深刻な状態を回避することが出来ますので、必ず定期健診を行いましょう。