病は本当に恐ろしいものです

病気の恐ろしさ、加えて本人、家族の「心」までも蝕むものです。 今、私達と同じように、たくさんの人が苦しんでいます。

そのような人達にお力になれれば…と思い、私達の「体験」を書きました。

私は作家ではありません。気のきいた文章を書くことも出来ません。

ただ、「私達の体験」をお伝えすることで、少しでも同じ悩みを持つ人達に「希望」を持っていただくことが出来たらと思い書きました。

これは二人三脚の糖尿病闘病記です。

苦難と克服、そして希望

若い頃から体格の良かった主人は、ある日突然、「糖尿病です」と言われました。 医者からそう告げられた時、私は自分の耳を疑いました。とても信じられませんでした。

これから先のことを考えると、頭の中が真っ白になり、地獄の底へつき落とされた気持ちになりました。私は毎日の患者さんとの生活を通じて、糖尿病の恐ろしさを嫌と言うほど知っているのですから。

それは今から二十八年前、夫がかねてより念願の「うどん屋」を開業したばかりの頃のことです。
ある日、主人は腕にできた小さな湿疹が気になり、何気なく皮膚科を受診したのです。

医者に薬を処方してもらい、しばらく治療しましたが、湿疹は一向に良くなりませんでした。

「この程度の湿疹がこの薬で治らないのはおかしい。もしかしたら……」

医者はそう考えたようです。

念のためにと血液検査をしたところ、血糖値がなんと400もありました。

夫は医者から「すぐに内科を受診するように」と勧められました。


まさか自分の夫が糖尿病になるなんて…とても信じられませんでした。

いや、信じたくはありませんでした。

でも、振り返るといくつか思い当たる節はありました。

何しろ当時の夫の生活は、朝食はもちろん、昼食さえも食べる暇がなく、夜になって落ち着くと三~五合のお酒を飲みながら、一日分の食事を一度に食べていました。それでは身体にいいわけがありません。

その頃の私達は、夢だったうどん店の開業に向けて早朝から夜遅くまで働き続け、その上スタートしたばかりの店の経営も不安定で、将来を考えると一体どうなるのかと、ストレスに潰されそうな毎日を送っていたのです。

当時を思い返すと、主人は喉の渇きを覚えて水をよく飲んでいましたし、トイレも近く、夜中に何度も起き出しトイレに行っていました。

夫は自分の夢と引き換えに、正真正銘の本物の糖尿病患者になってしまいました。

糖尿病は完治しません。」

そう突き放されました。

その返答に私はガックリと肩を落としました。

つくづく、やっかいな病気になってしまったことを悔みました。

そしてそれまでの毎日の暮らし振りを後悔すると同時に、私が傍に居ながら、夫がこのような病気になったことで、わたし自身も自分に自信がなくなりました。

何故なら、私は「もう、これまでの生活に二度と戻れないんだ」と悟ったからでした。

私達の闘病生活

「糖尿病教室」二つの療法

落ち込んでばかりはいられない。何かを始めなければならない。

何とか夫を元の体に戻したい。そう思い、私は糖尿病と診断された夫を「糖尿病教室」に参加させることにしました。

糖尿病の療法には食事療法と運動療法の二つがあります。

運動療法は万歩計で一日数千歩を歩く療法ですが、夫は毎日が忙しく、仕事の合間に運動をする時間など、とても見つけられるはずもありません。

結局、とても続けられませんでした。

それよりも、その当時の私達の夫婦仲を悪くしたのは残された食事療法でした。

糖尿病治療の食事療法は、何しろ量が少ないため満腹感もなく、すぐにお腹が空いて辛かったのだと思います。

肉や天ぷらが大好物だった夫に、野菜中心のあっさりタイプの食事を用意するわたしも辛かったのを覚えています。

夫は常にイライラし、「野菜ばかりではお腹がいっぱいにならない」と私に八つ当たりをしたこともしばしばありました。

食事療法に関しては私たち夫婦だけでなく、たくさんのご夫婦がご苦労されていることと思います。

そんな夫でしたが、しばらくすると糖尿病の食事にも慣れてくれるようになりました。

そして、人間は本来、ほんの少しの正しい食事で生きていける生き物であることを理解してくれたようです。

今は飽食の時代と言われています。

以前の夫と同様、今の世の中には食べ過ぎている人が多いのです。

戦争に負けて食物が不足していた頃は糖尿病にかかる人なんて、ほとんどいなかったのですから。

難しい食事療法

ストレスの原因だった食事療法

何といっても、糖尿病の治療の基本は食事療法になります。

いくら治療をしてもいい加減な食事を続けていたら、血糖のコントロールなど考えられません。

糖尿病宣告を受けた頃、夫は爪をよく腫らし、そこから膿が出たりしていました。

また、明け方、寝床から起き上がろうとすると、ときどき足がつることもありました。

私は経験から、病気が進行するとそんな症状が出ることも知っていました。

そんな兆候が出る度に私は、夫の食事療法に更に細心の注意を払わなければなりませんでした。

毎日毎日、その食事内容に悩まされる日が続きました。

食事療法の苦難

食事療法と言っても私達が簡単にできるものではありません。

たくさんの苦難がありました。

【第一の苦難】
バランスよく必要な量だけを食べること。
糖尿病には食べてはいけないものはありません。
何でも食べられますが、大切なことは絶対に食べ過ぎてはいけません。
お酒も飲み過ぎてはいけません。

【第二の苦難】
バランスは特に気をつけなければなりません。
まずはバランスよく色々なものを食べることです。
当然ですが、何しろ量は多く食べられませんから、その中でビタミンやミネラなどの栄養素が摂れるような工夫が毎回必要になります。
それは考える以上に大変なことでした。調理する方もバランス良く量も考えて作らなければならないのですから。

夫も最初の頃は食事療法がとても辛いようでしたが、今ではすっかり慣れてくれました。


胃袋も小さくなったようで、今では量も少なくて充分だと言ってくれます。その夫の言葉に、わたしは支えられました。