インスリンを注射するインスリン療法は、『一度始めると一生やめることができない』『『血糖値コントロールの最後の手段』と思われていたり、『自分で注射するのが怖い』といった理由でインスリン療法を拒む患者さんも少なくありません。
インスリン療法は決して最後の手段ではなく、適切なインスリン療法を行うことで血糖コントロールが良好になり、結果インスリン注射が必要なくなることもあるのです。
上手に糖尿病と付き合っていくためには、やみくもに怖がるのではなく、まずインスリン療法を正しく理解することから始めましょう。
糖尿病治療の流れ
通常、血中にブドウ糖が増えると、膵臓から分泌されるインスリンの働きにより、糖はエネルギーとして筋肉などに送り込まれ、血中ブドウ糖は一定量を保たれます。
しかし、インスリンの分泌量が少なかったり、働きが悪いなどで血中のブドウ糖量が増えすぎた状態が長く続くと、糖尿病となります。
糖尿病治療の基本は、高血糖の状態をつくらないよう血糖をコントロールすることです。
できるだけ食生活の見直しや運動不足の改善など『食事療法』『運動療法』による血糖コントロールを行いますが、食事療法や運動療法では良好な血糖コントロールが出来ない場合には、食事療法や運動療法ととも薬物療法が必要となります。
薬物療法には、主に飲み薬(経口薬療法)とインスリン注射があります。
従来は飲み薬の効果が得られにくくなってから、インスリン注射を行うことが多かったのですが、現在は様々な治療方法が取り入れられています。
インスリン療法のタイミング
今までは、『食事療法、運動療法』→『飲み薬』→『インスリン療法』という考え方でした。
まだまだ、インスリン療法は最終手段、というような認識が残っていますが、最近では最新の研究結果により早期の段階でインスリン療法を取り入れることが多くなっています。
糖毒性を改善するためのインスリン療法
飲み薬を長く続けていると、薬の効果があらわれにくくなる場合があります。
高血糖の状態が続くとインスリン分泌の低下、インスリン作用の不足を引き起こし、さらに糖尿病が悪化するという悪循環を引き起こします。
これを糖毒性といい、この悪循環を改善するためにインスリン療法はとても効果的です。インスリン注射により高血糖状態から解除し、状態が落ち着いて来れば、また飲み薬と食事・運動療法に切り替えるということも可能です。
この場合、重要なのは導入時期です。
やはり自分で注射をすることには抵抗があり、インスリン療法が遅れがちになります。
すると、糖毒性はさらに悪循環を続け、急激に糖尿病が進行する危険があるのです。
主治医としっかり話し合い、インスリン療法のメリットに耳を傾けることが必要です。
合併症の予防にも有効な強化インスリン療法
強化インスリン療法とは、健康な人のインスリン分泌パターンを模倣し、理想的な血糖コントロールを目指す方法です。
厳密な血糖値管理のもと、1日に3~4回のインスリン注射を行うことで、高血糖状態を最小限に抑え、糖尿病の悪化を防ぎます。
この療法により合併症のリスクは軽減されますが、血糖測定を頻繁に行わなくてはならず、また低血糖になりやすいというリスクもありますので、できれば専門医の指導のもと、導入するのが望ましいと言えます。
進化するインスリン注射器
注射器は痛い、怖いというイメージが強く、インスリン療法を積極的に取り入れる患者さんは多くありません。
しかし、インスリン注射器は目覚ましい進化を遂げています。
病院でみる注射器とは全く異なる『ペン型』のものや、4mm針という極細の針先、また、カット面を3面から5面にすることで、刺した時の痛みを軽減させたものなど、安全で使いやすい注射器が開発されています。
実際に一度使ってみれば、思っているほど痛くも面倒でもないことが実感できるはず。
インスリン療法の必要性をしっかりと理解し、最善の血糖コントロールを選択しましょう。